日本耳科学会 一般社団法人 日本耳科学会 事務局
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聴力改善の成績判定について(提案)

日本耳科学会(理事長;柳原尚明)
用語委員会;森山 寛、山本悦生、湯浅 涼

 鼓室形成術の術後聴力の成績判定については、1987年に初めて臨床耳科学会の用語委員会より基準が提案され、その後本邦においては、現在に至るまでこの基準により成績の判定が行われている。しかしながら近年、鼓室形成術などの聴力改善手術に関する技術の改良や、人工耳小骨、フィブリン糊など資材の開発は画期的な進歩をとげている。また社会のニーズも高くなり、社会的適応レベル(4 0 d B )など過去に示された聴力改善の判定基準が、現状においては緩すぎるとの指摘も少なくない。

 そこで現在の社会や医療の水準に合せた基準の見直しを図り、新たな手技の開発を含めて鼓室形成術における術後聴力の成績向上に努める必要があるとの認識より、今回新たな基準案(聴力改善の成績判定案2000 )を提出した。
 従来の基準をもとに用語委員が行った様々な中耳疾患に対する鼓室形成術の術後成績を種々の角度より検討し、さらに欧米での成績判定との整合性を考え、以下のような観点を重視した新たな基準案の概略を示す。

  1. 気導・骨導差 (A-B gap)、聴力改善 (Hearing gain)、聴力レベル (Hearing level) のいずれかの基準をクリアーするものを成功例とする従来の基準は、各種の病態に対する鼓室形成術の術後の聴力改善を評価するという点において非常に優れており、今回もこの考えを踏襲した。
  2. 気骨導差;耳小骨形成の手技を適正に評価できるのは、これらの中では気導・骨導聴力差である。従ってこのA ―B gap の基準を見直し、従来の20dB を15dB と厳しくする。
    (欧米では、0 ―1 0 、0 ―2 0 、0 ―3 0 d B あるいは0 ―1 0 、11 ―2 0 、21 ―3 0 d B 、>3 1 d B での%表示が使われる傾向がある)
  3. 聴力改善;3 分法のみ(従来の基準は3 分法あるいは4 分法)とするため、術後に5 0 0 H z 、1 k H z の改善が見られても、術前の2 k H z のA ―B gap が少ない例では2 k H z の上昇が軽度となり、1 5 d B の聴力改善が得られない場合もある。また近年では、聴力改善が期待できない例でも、種々の理由により積極的に鼓室形成術を行う傾向にある。従って聴力改善の値については、従来どうり15dB とする。
    (欧米では、>20dB 、>10dB 、<10dB での%表示などが散見される)
  4. 聴力レベル;Q O L や複雑な社会事情により、患者の聴力に対する要求も高く、社会適応レベルが4 0 d B であることは現状にそぐわない。また資材や手術手技の改良により、術後成績は過去と比較して向上している。かねてから指摘されていたごとく、術後の聴力レベルにおいて4 0 d B をもって成功例とするのは、基準が緩すぎると考えられるので、新たな基準案では欧米に準じて聴力レベルを30dB とする。
    (欧米では3 0 d B が一般的である。また欧米の論文などでは術後の聴力レベルがしばしば平均値で表示されている)

 

【聴力成績の判定と新基準(案)】

☆気導・骨導差 A -B gap : 15dB     (従来:20dB )
☆聴力改善 Hearing gain : 15dB     (従来:15dB )
☆聴力レベル Hearing level : 30dB     (従来:40dB )

このうち一つ以上を満たすもの、すなわちいずれかに該当するものを成功例とする。

この基準案における付帯事項として以下の点を明記する。

  • 平均聴力レベル(会話領域)の算出法は3 分法のみとする。
  • 気導・骨導聴力差A ―B gap における骨導値については、術後に骨導聴力が変動(上・ 下)することも認められるためアメリカの基準と同様に、術前の骨導値を持って骨導値と し、A ―B gap は術後気導値と術前骨導値との差によって表すこととした。
  • 社会適応レベルは30dB とした。
  • 判定時期は従来と同様に最短術後6 カ月経過したものとした。
  • A ―B gap のみの判定基準について
    従来付記されていた、-1 0 ~1 0 d B :著明改善、11 ~2 0 d B :改善、21 ~3 0 d B :軽度改善、3 1 d B 以上:不良というA ―B gap のみの判定基準については、新しい基準ではA ―B gap 1 5 d B が一つの基準となったことと、欧米での0 ―1 0 、11 ―2 0 、21 ―3 0 d B 、>3 1 d B の段階評価などとの整合性の観点などより、今回は、このA ―B gap のみによる判定基準は盛り込まないこととした(欧米では、A ―B gap の%区分による報告や論文が散見される)。

 

表1 は用語委員が行った鼓室形成術の成績である。聴力の改善しやすい鼓膜正常な耳小骨奇形(・型変法と・型変法の42 例)の例から、慢性穿孔性中耳炎ならびに中耳真珠種(M y r i n g o から・型変法までの1 00 例)、鼓室硬化症(硬化部位別に分類した1 00 例)、そして現時点では最も術後成績が不良である全面癒着を呈する癒着性中耳炎(59 例)の術後の成績を示す。これら3 03 例は3 名の用語委員会委員の各々の手術成績である。この成績をもとに今回の基準案を作成した。

 

表1  A-B gap gain level

しかしこの基準案にもいろいろな問題が含まれている。これを土台とし各方面から意見が広く寄せられ、より適正な聴力成績の基準が作られることを期待し、今後さらに検討を続けたい。

一般社団法人 日本耳科学会


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最終更新: 2012年4月12日