一般社団法人 日本耳科学会

耳の病気ガイド

人工内耳

人工内耳とはどのようなものですか?

人工内耳の概要については日本耳鼻咽喉科・頭頚部外科学会ホームページに記載がございます。Q&Aもございますのでそちらをご覧ください。

をご覧ください

人工内耳(人工聴覚器)はどこで受けることができますか?

日本耳科学会人工聴覚器手術症例登録システムを作っており、参加施設は下記リンクに掲載させていただいております。

人工内耳はどのような人に行われますか(適応基準)

成人の場合、まず聴力検査の結果が第一の基準となります。聴力検査を行い、平均聴力レベルが左右とも90dB以上の高度難聴の場合が適応となります。また、平均聴力レベルが70dB以上、90dB未満の方でも、補聴器を装用して聴き取りの検査(語音明瞭度検査)で、50%以下しか聞き取れていない方も適応となります。自覚的な症状としては、ご自身の耳ではほとんど音を認識できない、あるいは補聴器を装用しても言葉の聴き取りが不十分な状態です。このような症状がある場合は、一度耳鼻咽喉科を受診して、純音聴力検査や語音明瞭度検査を受けて下さい。年齢の制限はありませんが、多くの人工内耳手術は全身麻酔にて行うため、全身麻酔が施行できる全身状態が必要であり、中枢性聴覚障害や精神障害の合併、その他の重篤な合併症がある場合は十分慎重な判断が必要となりますので、人工聴覚器手術実施施設にてご相談ください。

図:聴力図から見た成人人工内耳適応

小児の場合、体重が8kg以上または、1歳以上が手術適応となっています。聴力に関しては、裸耳での聴力検査で平均聴力レベルが90dB以上の場合が適応となります。それらが確認できない場合には、6ヶ月以上最適な補聴器を装用した上で、補聴器装用下での平均聴力レベルが45dBより改善しない場合、6ヶ月以上の最適な補聴器を装用した上で、補聴器装用下での聞き取り検査(語音明瞭度検査)で、50%以下の場合も適応となります。ただし、小児の場合には正確な聴覚評価が困難であるという問題が伴うため、精密聴力検査機関にて、慎重に人工内耳手術によって得られるメリットを考慮し、手術を選択する妥当性を判断することが重要であり、精密聴力検査機関を受診し相談ください。

図:おもちゃを使った小児の聴力評価(条件詮索反応聴力検査;COR)

適応基準の詳細(医療者向け)は下記リンクをご覧ください

精密聴力検査機関のリンク(日本耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会HP)

人工内耳の手術はどのように行いますか?

人工内耳植え込み術の詳細

手術手技について

手術方法は、①耳後部の皮膚切開、②乳突削開:乳突洞および乳突蜂巣(Mastoid)の骨削開、③後鼓室開放、④人工内耳電極挿入の順に行います。②以降は通常、顕微鏡や手術用ドリルなどを使用して行われます。

  • 耳後部の皮膚切開

    施設ごとに異なりますが、耳後部の目立たない場所を切開します。

    • 後方C型①

    • 後方C型②

    • 後方S型

  • 乳突削開

    他の中耳炎などの耳科手術と同様に、外耳道(耳の穴)の後方にある蜂巣状の骨をドリルで削ります。術前の画像評価(CTやMRIなど)で削開の範囲を十分に検討して行います。開放した乳突腔には最終的に人工内耳電極のセーフティループ(電極のリード線の余剰部分を収納)を置きます。セーフティループを作ることによって、電極がスリップアウト(自然に抜けてしまうこと)を予防します。小児では成長に伴って頭蓋骨も大きくなりますが、電極のリード線に余裕があることからスリップアウトは生じず入れ替えることなく、そのまま使用が可能です。

  • 後鼓室開放

    乳突削開術のあと、外耳道と顔面神経垂直部の間の骨を削除し、中耳腔(鼓膜の奥の空間)の後方に位置する後鼓室を乳突腔側から開放します。後鼓室には、耳小骨の一つであるアブミ骨や正円窓と呼ばれる蝸牛の内耳窓が存在します。正円窓は人工内耳の電極を挿入する経路の一つです。後鼓室開放は通常2~4mm程度の空間をドリルで丁寧に削除する必要があり、非常に高い技術が必要となります。

  • 電極の挿入

    電極の挿入は、正円窓あるいは蝸牛開窓(蝸牛に孔を開ける)経由で行われます。電極は蝸牛の基底回転(高音域を担当する領域)から頂回転(低音域を担当する領域)に向かって挿入されます。可能な限り、蝸牛の構造を温存するため電極の挿入も非常に慎重に行われます。

合併症について
  1. 創部の出血、腫脹、感染:
    他の手術と同様に創部に関するトラブルを生じることがあります。人工内耳手術では大きな血管を損傷するリスクは低く、創部からの軽度の出血がときに見られる程度です。ほとんどの場合、圧迫で止血可能です。腫脹についても同様にまずは圧迫にて様子を見ます。感染については、抗生剤の投与や洗浄ですぐに改善する場合には問題ありませんが、遷延する場合には人工内耳インプラントの摘出、入れ替え手術が必要となる場合もあります。
  2. 顔面神経麻痺:
    人工内耳手術では、顔面神経のすぐ近くの骨を削除する必要があることから顔面神経麻痺を生じるリスクが存在します。しかし、術前の十分な画像評価と慎重な手術操作によって実際にはほとんど生じることはありません。多くの施設では術中の顔面神経モニタリングを併用することにより予防に努めています。
  3. めまい:
    術後めまい感やふらつきが生じることがありますが、通常1~2週間以内に治ります。
  4. 味覚障害:
    鼓索神経という味覚の神経の近くを、ドリルで削って人工内耳電極を挿入するため、味覚障害が生じる可能性があります。通常6か月から1年以内に軽快することが多いです。

術中・術後のモニタリング

人工内耳手術では、電極の挿入・作動と聴神経応答を客観的に確認するために術中モニタリングを行います。電極インピーダンスは各電極の電気抵抗を測定し、断線(オープン)や短絡(ショート)の有無、組織との接触状態を評価します。電気誘発複合活動電位(ECAP)は電極から刺激を与え、聴神経の複合活動電位を自動記録し、電極‐神経間の結合の確かさや術後マッピングの初期目安を得ます。単純X線/コンピュータ断層撮影(XP/CT)は電極配列の到達範囲・位置ずれ・巻き込みを画像的に確認し、異常所見があれば直ちに対応します。なお、電極インピーダンスが正常でも完全挿入や最適位置を保証するものではありません。ECAPは取得不能でも術後聴取が必ず不良とは限りません。画像では低被ばくのXPで全体像、必要時に高解像CTで細部を評価し、奇形例などでは術中透視(Cアーム)を限定的に用います。これらを組み合わせることで、安全性を高め、術後の聴取成績のばらつきを減らすことが期待できます。総じて電極インピーダンスECAP・XP/CTは「電極の健全性×神経反応×位置」の三点確認で、手術の質保証を支えます。

図:レントゲン画像

術後はどのようなことを行いますか?

人工内耳は手術後すぐにきこえるようになるわけではありません。補聴器と同じように、人工内耳も入ってくる音の調整が必要で、この作業は「マッピング」と呼ばれています(初回の調整は「音入れ」ということもあります)。具体的には図のようなスケールを使って、人工内耳から入ってくる音の「きこえ始め」や「不快にならない最も大きい音」を言語聴覚士の先生と一緒に設定していきます。

人工内耳は様々な「音」が入るようになりますが、使い始めた直後は「ことば」として聴くことは難しく、音質に違和感を訴える方が多いです。「機械が話している」「ミッキーマウスが話している」様な音に聴こえる方が多いです。最初は人工内耳の音に慣れることを最優先に考え、小さな音でも良いので、長く装用できる音量にマッピングします。日常生活で使用時間が長くなり、人工内耳からの音に慣れてくると音量が小さく感じ、徐々に音質の違和感が小さくなります。慣れてきたら少しずつ音量を上げていきます。

人工内耳から聴こえてくる人の声のボリュームがちょうど良くなり、調整が安定してくると、「ことば」としてきこえることが増えていきます。またマッピングを重ねることで、不快な音も少なくなっていきます。最終的には静かな場所での1対1の会話は理解できるようになることが多いですが、きこえには個人差があります。

図:ラウドネススケール(MED-EL社より提供)

両側高度/重度難聴以外の方が人工内耳を受けることはできますか?

低い音はまだ聞こえるけれど、高い音が聞き取りにくい方には、「残存聴力活用型人工内耳EAS(イーエーエス)」という治療方法があります。
EASは、低い音は補聴器で、高い音は人工内耳で補うしくみです。2つの方法を組み合わせて使うことで、より自然に音が聞こえやすくなります。
EASは、耳の中に入れる機器(インプラント)と、耳の外につける機器(スピーチプロセッサー)の2つでできています。手術を受けられるかどうかは、EASの基準にきこえの状態・聴力が合致しているか評価をした上うえで決まります。手術は、人工内耳の手術が実施できる病院で受けることができます。

図:聴力図から見た成人EAS
人工内耳適応と通常成人人工内耳の適応

また、片方の耳だけが補聴器では聞き取ることができないような高度難聴の場合にも、人工内耳での改善が報告されています。今後、日本でも保険で治療できるようになることが期待されています。

適応基準は下記リンクをご覧ください。

*一側難聴は2025年12月時点でまだ保険適応にはなっておりません

人工内耳に関連した専門的内容をご覧になりたい方へ

日本耳科学会では若手医師向けに人工内耳教育動画を作成しております。
少し専門的な話もありますが、深く学びたい方はご覧ください。