耳管開放症
耳管開放症の症状と原因
耳管とは
飛行機の離着陸や高層ビルの高速エレベーター、山道を車で上り下りしたときに耳がつまった感じがしても、飲み込むか、あくびをするとすっと楽になることはありませんか?こうした耳の不快感が起きにくいように、また起きた場合にも解消するために働いているのが「耳管(じかん)」です。
音や会話は、外耳道、鼓膜、中耳、内耳を伝わって脳に届けられることで、正常に聴き取ることができます。耳管は、この聞こえを支える重要なしくみの一つで、鼓膜の奥にある中耳という空間と、鼻の奥とをつなぐ細い管状の構造物です図1。耳管には正常な聴力を保つための大きな役割が3つあります。
- 中耳の圧力を外の空気と同じに調整する換気の通り道。この機能によって耳の不快感を防ぎ、音がすっきりと聞こえるようになります。
- 鼻の奥を通過する自分の声や呼吸の音が中耳に響いたり、病原体が入り込んだりするのを防ぐ仕組み。
- 中耳にたまった余分な分泌物を鼻の奥に流し出す排出路。
ふだん耳管はしっかり閉じていますが、飲み込んだりあくびをしたりすると一瞬だけ開き、そのタイミングでこれらの役割を果たしています。つまり、耳管はふだんは閉じ、必要なときに短時間だけ開くことで、耳の正常な感覚を保っています。
図1:耳管の形と位置。青色が耳管。
耳管開放症の症状
耳管開放症は、ふだんは閉じているはずの耳管が開きっぱなしになっている状態です。女性にやや多く、30歳前後、70歳前後に見られることが多いです。 耳管が開きっぱなしになると、次のような症状が現れます。
- 耳閉感:中耳の圧力をうまく調整できず耳がつまったように感じる。
- 自声強聴:自分の声が大きく、響いて聞こえる。
- 呼吸音聴取:自分の呼吸の音が耳の中で聞こえる。
症状の出方には個人差があります。3つ全てが当てはまる人もいれば、1つだけ、あるいは2つだけの人もいます。1日中続く場合もあれば、時間帯や体勢、運動、会話などで強まったり弱まったり、消失する場合もあります。鼓膜が呼吸と共に動く感覚を自覚することもあります。こうした耳の不快感を軽減させるために鼻すすりが癖になっている人もいます。
ぜひ覚えておいてほしいのは、これらの症状はまったく違う耳の病気でも生じるということです。ですから、自己判断は避けて、耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診し、症状の原因を確かめることがとても大切です。
耳管開放症の原因
耳管は、周囲を満たす筋肉・脂肪・静脈網が四方から圧をかけることで壁どうしが押し合わさり、ふだんはぴったり閉じています図2a。飲み込みやあくびをすると、耳管を開く筋肉が一瞬働き、押さえ込まれた壁が離れて開きます。しかし、筋肉がやせて体積が減る、神経の麻痺で筋肉が使われず萎縮する、痩せすぎで脂肪が減るといった変化や、体内の水分が不足して静脈網が十分にふくらまなくなると、耳管を外側から押さえつける力が弱まり、ふだんから開きやすい状態になります図2b。
具体的には、脱水、人工透析、急な体重減少(ダイエットや病気によるもの)、神経や筋肉の病気、顎関節症など顎の関節の異常、顎・顔面の外傷、頭部の手術後に生じた神経の障害が原因になることもあります。妊娠や女性ホルモンのエストロゲンを含む経口避妊薬も誘因として知られています。さらに、中耳炎などで耳管内側の粘膜の性状が変わり、耳管開放症につながることもあります。
ただし、こうした要因を調べても原因がはっきり特定できない例も少なくありません。症状の経過、生活の変化、鼓膜の視診、聴力検査、耳管機能検査、CTなどの画像検査を組み合わせ、耳鼻科医が総合的に評価して診断します。
図2:耳管と周囲の組織との関係。
- (a) 周囲の筋肉・脂肪・静脈網が四方から押さえ込み、耳管の壁が密着してふだんは閉じている状態。
- (b) 筋肉や脂肪が減り、脱水などで静脈網がしぼむと、押さえる力が弱まり、耳管が開きやすくなっている状態。
耳管開放症の治療
保存的治療・生活指導
脱水や体重減少、薬剤性などが原因となります。特に過度なダイエットは症状をひどくすることがあります。体重減少など原因が明らかな場合には体重増加、最低限体重の維持をすすめます。
エストロゲン製剤を含む低用量ピルも原因の一つになります。婦人科の病状、状態にもよりますが、低用量ピルの休止やエストロゲン非含有製剤への変更を依頼することもあります。
投薬としては、漢方や生理的食塩水の点鼻治療を行うことがあります。生理的食塩水の点鼻治療は安全性が高く、手軽に行えます。特に高齢の方に効果が高いと報告されます。感冒時など膿性鼻汁(黄色い鼻水など)が出ている時は、中耳炎を起こすことがあるので休止するのが望ましいです。
漢方はその病状、体質などの証により主治医と相談しましょう。
一時的な症状緩和のための処置としては、耳管咽頭口閉塞処置(鼻から細いカテーテル管をいれて耳管内に薬液を注入する)や鼓膜処置(鼓膜にテープやシールをはる)などがあります。処置ができる施設は限られていますので主治医と相談しましょう。
外科的治療
保存的治療を最低3か月以上できれば6か月以上継続しても改善が乏しい時には、手術治療を検討することがあります。
鼓膜チューブ挿入術
耳管開放症の中でも「鼻すすり型耳管開放症」と診断された場合には選択される治療法です。時に「耳管狭窄」「反復性中耳炎」「滲出性中耳炎」と診断されているケースもあります。幼少期より耳管開放症が存在し、「鼻すすり」により耳管に陰圧を作り出すことで一時的な耳管狭窄状況を作りだします。患者さんが自身でみにつけた自己防衛治療法ではありますが「鼻すすり」を継続することで鼓膜が凹み続け、「真珠腫性中耳炎」にすすめことがあります。これを予防するために鼓膜チューブを挿入することがあります。耳管開放症の直接的な治療法ではないので追加で治療することもあります。
耳管用補綴材挿入術(耳管ピン挿入術)
難治性耳管開放症に対する外科的治療「耳管ピン手術」は、1990年代後半に東北大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科の小林俊光名誉教授が開発したあと、臨床治験を経て、2020年12月1日に保険適用となりました。本治療は、日本耳科学会で認定された医師・施設において行われます。具体的な施設は下記リンクをご参考ください。
効果・メリットとしては、難治性耳管開放症の根治が約80%期待されます。一方、合併症・デメリットが約30%報告されています。
これは手技の性質上、①鼓膜を切開し、②開放した耳管内に補綴材(耳管ピン、シリコン製)という異物を留置することで、③耳管狭窄をおこすためです
- 鼓膜を切開することで鼓膜穿孔、難聴などがおこりえます
- 異物を留置することで感染を起こした場合には、中耳炎、耳漏などがおこりえます
- 耳管狭窄をおこすために、中耳炎、難聴などがおこりえます
- 体重減少などで耳管開放が増悪した場合には、よりサイズの大きい補綴材への入れ替え手術(再手術)が必要になる場合があります
メリット/デメリットのバランスを考えて、認定施設および認定医師との相談が必要になります。
耳管用補綴材は富士システムズ株式会社の協力のもと作成されています。
耳管開放症診療対応施設一覧
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