対談

対談日:2025年10月31日

ダイバーシティ委員会企画
若手耳科医インタビュー(キャリア形成と学会に期待する支援)

インタビュアー

  • 堀井 新(新潟大学)
  • 小原 奈津子(岐阜大学)
  • 片岡 祐子(岡山大学 ダイバーシティ委員会 委員長)

参加者プロフィール

中澤 宝(慈恵医大)

耳科手術と小児難聴に注力。専門医取得以降、レジデント期から臨床と研究の両輪で経験を積んできた。

梶原 理子(東邦大学大森病院)

耳科専門医不在の環境で、月1回の外部指導を受けながら耳科診療体制を構築。産休・育休から復帰後も手術を継続し、国内外の施設見学を通して術式と治療の幅を広げている。

斎藤 杏子(福井大学)

小児難聴外来、アレルギー研究に携わりながら、耳科手術にも取り組んでいる。

阪上 雅治(奈良医大)

大学院・海外留学を早期に経験。帰国後の臨床キャッチアップ期間中。

  • 堀井

    今日は、若手〜中堅の先生方に集まっていただきました。最近の関心や課題、それから耳科学会に期待する支援などについて率直に語っていただきます。

    まずは、これまでのキャリアで難しかったこと、また学会にどのようなサポートがあるとよいかを順番に教えてください。

  • 中澤

    そうですね。レジデント時代は耳科手術に触れる機会が少なく、どのように技術を身につければよいのか不安がありました。難聴・内耳領域の研究についても、何から始めればよいのかイメージがつかめず戸惑っていました。幸運にもその後は学ぶ機会に恵まれましたが、同じような不安から耳科学へ踏み出しにくいと感じる方もいらっしゃると思います。そのため、興味のある分野を施設の垣根を越えて学べるような「病院見学や研究相談」のシステム化が、学会の後押しによって実現すると心強いです。

  • 堀井

    なるほど。では、梶原先生は?

  • 梶原

    私の入局時に教室体制が変わったことにより、耳科専門医がいない状況からのスタートとなりました。1年目の私でしたが、月1回、外部の先生にお越しいただきながら耳科診療体制を構築してきました。教科書で得た知識を実際の診療や手術と結びつけることは決して容易ではありませんでしたが、1年目のうちから耳科学会に入会していたことで、学会主催のセミナーや手術研修会に継続的に参加でき、効率よく勉強することができたと感じています。また、学会で他施設の先生方と交流したことをきっかけに、国内外の複数施設を訪問する機会にも恵まれ、技術や考え方の幅を広げることができました。若いうちから耳科学会に入会しやすくなる工夫があると、より多くの医師が学びの機会を得られるのではないかと思います。

  • 堀井

    仲間がいない中での耳科診療をしなければならない苦悩も話題に上がりました。斎藤先生、いかがですか。

  • 斎藤

    教授の専門ではないこともあり、当科では若いうちに耳科学を志す医師が少なく、私もそのことで数々の困難に直面しました。耳科診療を始めてからも、身近に同じ志を持つ同年代の仲間がいないため、自分の立ち位置や方向性に迷うことがありました。私にとって実習や勉強会は、知識を得る場としてだけではなく、他病院の先生と交流する場としても非常に重要であったと考えています。若手医師にも広く参加を促すためには、広報の仕方を工夫していく必要があるのではないかと思っています。

  • 堀井

    ありがとうございます。では阪上先生。

  • 阪上

    私は大学院と海外留学をキャリアの早い段階で経験しました。帰国後の臨床キャッチアップは焦りもありましたが、できる範囲で最大限成長するスタンスに切り替えました。基礎研究をするにあたって、人的ネットワーク形成は個人の自助努力でどうにかするしかなく、著名施設に声をかけるのもやっぱりハードルが高い。だから、学会を通じて基礎研究を行う研究者のコミュニティ形成をサポートする仕組みがあるとよいと思います。

  • 小原

    ありがとうございます。では、留学や産後などのブランクから臨床・手術に戻る際に、学会としてどのような支援があると参加しやすいでしょうか。

  • 阪上

    ブランクのある会員向けに、側頭骨実習の“優先枠”があるといいですね。可能なら参加費や旅費の一部支援も。自分と同じ立場の人が“見える”だけで、参加への心理的ハードルはかなり下がります。

  • 中澤

    同感です。また、側頭骨実習だけでなく、実際の執刀経験も重要だと思います。若手医師の執刀機会を拡大し、学習機会を提供するような支援があると有難いです。

  • 堀井

    理事会でも、定年後の熟練医に登録していただき、希望する施設や若手につなぐ「手術指導ドクターバンク」を議論しています。登録・派遣のルールや保険・倫理の設計は必要ですが、偶然の出会いに頼らない支援ができます。

  • 梶原

    まさにそれです。術後管理を含め一人で判断に迷う場面は少なくありません。学会経由で相談や見学につながる窓口が可視化されると、安心して学べると感じます。

  • 斎藤

    学会期間中に、同年代だけで集まれる時間帯や肩の力を抜いて話せる交流の場があると、若手医師の初参加の敷居を下げられるのではないかと思います。また各年代・色々な環境で働く先生方にとっても仲間づくりの場になり、モチベーション向上につながると思います。

  • 中澤

    それと多職種連携。施設基準の問題もあり言語聴覚士の確保は容易でありませんが、学会が多職種の参加導線を整えることで、検査・療育体制の底上げにもつながると思います。

  • 片岡

    ありがとうございます。今日のキーワードは「入口を広げる」と「仲間の見える化」ですね。

総評(片岡 祐子・ダイバーシティ委員会 委員長)

本日の議論から、教育・見学機会へのアクセス、ブランクからの実技復帰、非会員・若手への情報伝達、同世代ネットワーキングの四点が共通課題として浮かび上がりました。学会としては、若手の先生方の声を丁寧に受け止め、参加・学習・復帰の機会を広げるための支援を段階的に検討し、学会に「仲間がいる」ことを可視化しつつ、できるところから取り組みを進めていきます。
小さな成功体験を増やすことが、挑戦の連鎖を生みます。

ぜひ現場の声をお寄せください:otology@nacos.com(日本耳科学会 事務局)。